某様に捧ぐ
って凄く自分が好きなように書いちゃいましたが…すいません><
「紅、」
呼ぶ声に振り向くと彼の顔。
「何ですカ、」
名前を呼ぼうと口が「ひ」の形を作った瞬間、
有無を言わさず抱きしめられる。
「ちいと待っとってな」
大きく息を吸う音。
規則正しくゆっくりと、深呼吸のようなそれが、私の首のすぐ横で続いていく。
彼が夜中に帰って来ると、たまにこうなる時がある。
そういう時は彼からは、仄かに鉄の匂いがして、私は黙っているしか無くなる。
きっと、生きている匂いというか、そんなものでも吸い込んでいるのだろうとうっすら思う。
彼の仕事は胸を張って堂々と口に出来る物ではないことも、人道に反することを毎日のようにこなしていることも、分かっている。
何度もやめろと言ったけれど、彼は首を縦には振らない。
私に出来ることは、彼の仕事を少し手伝い、帰った彼をこうして迎えることだけらしい。
「ちょっと待ちましたヨ」
「ん、…おおきに」
ゆっくり離れる彼の、どこか遠くを見るような目が、彼が生む死を見ているような、そんな気がして。
わざと明るく振る舞って、
「顔色悪いですヨ、気持ち悪イ」
冗談めかしてへらりと笑うと、
「元々こないな色しとるさかい気にせんといてぇな」
調子良く帰ってくるのにほっとしつつも、無理をしていないか不安になる。
「そういえばそうかもしれませんネ…ああ、夕飯食べまス?」
「せやなあ、もろとこか」
こうして迎えることすらも、出来なくなるのが恐ろしくて、
「味は保証しませんけどネ」
「んな殺生な。黒焦げは堪忍やで」
そんなことなど口に出来ずに、こうしているしか出来ないのが、もどかしくて。
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